KONICA C35 EF


みのかんのC35EF
このカメラは2台ある。一台は京都の大島さんより2000円ほどで譲っていただいたもの。この手のカメラはよく写るしストロボも気楽に使えるし、大好きなカメラである。もちろんAFのこの手のカメラも沢山あるが、ピッカリコニカは目測というのが気に入っている。ストロボも勝手に光るのではなくて、撮影者の意思でポップアップできるのが気に入っている。

もう一台は東京へ研修会に行ったとき、時間があったので松坂屋カメラにより、ジャンクワゴンの中より救い出したもの。値段はたったの500円。もちろんジャンクではなくて完動品だった。
後で聞いたら、この手のカメラはチェックして完動品として売っても、たいした値段がつけられないので、ほとんどがジャンク扱いになるという事である。なんという情けない話であろう。
我々みたいな中古カメラファンにはたしかにありがたい話ではあるが、これではあまりにもカメラが可哀想である。

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発売は1975年。
設計者は知る人ぞ知る内田康男氏。
この頃のカメラはフラッシュマチックが最先端技術。ストロボが自動制御できるといっても、ストロボを持ち歩かなければならないのは大変である。このカメラはストロボと一体化してストロボが飛び出すというもの。今ではあたりまえのことになったが、これを最初に思いつき実現したのがコニカであり、その設計者が内田康男氏である。

内田氏は月1回の割合でコニカのラボをまわり、一般ユ−ザ−の写真をチェックした。予想よりも沢山の失敗写真が多いのにびっくりしたという。AEなら誰でも簡単に写せるはずなのにと首をひねった。ほとんどが露出不足の写真であったという。
露出不足を解消するにはストロボをなんとかするしかないと考えた内田氏は、ストロボ内蔵という需要の真空地帯にたどり着く。内田氏の研究はその後10年かかってやっと発売にこぎつく。

小型ストロボの実現までの苦労
内田氏は小型ストロボをメ−カ−に頼んだが、すべて断られたという。そんな中でフジミ光機の佐藤さんという人が面白がって試作費用もろくにとらずに引き受けてくれたという。この佐藤さんという人の男気がピッカリコニカ製作の引き金となった。
やっと試作機が完成したとき、スタッフの一人が感電してしまい、高価な試作機を床に落としてしまった。ストロボの電圧は300V、一般のユ−ザ−が雨の日などに使うには怖くて仕方がない。そこからプラスチックボディの発想が生まれたという。
しかし、問題はまだあった。ボディの小型化とレンズの明るさである。出来上がったプラスチックの試作機はとても大きくて、弁当箱というあだ名がついていた。レンズも当時は大口径の競争の時代である。しかしストロボ内蔵なら明るいレンズはいらないと内田氏は判断。F3.5でもいいと思ったが、F2.8に決定する。ボディも小型化することに成功してようやく完成かと思われたが、、、、、。

赤目現象の解消とストロボ消し忘れの問題
ボディが小さくなったのはいいが、今度はストロボとレンズが近すぎて被写体の人物の赤目現象が問題となった。大きいボディではまったく問題はなかったのではあるが。
ボディを小さくするのに5年もかかったのに、ここで開発がストップした。
もう一つの問題はストロボ電源のスイッチを切り忘れて、すぐに電池がなくなってしまうということである。電源スイッチを何とかしなければならないという課題が生まれた。
一年後のある会議の時に、スタッフの一人がストロボをスライド式にして、電源のスイッチも兼ねたらどうかという提案をした。会議は興奮のるつぼであったという。一年間にわたる懸案が二つとも一気に解決した。

月産台数の誤算
当時のカメラは一番売れてるカメラが月産1万台。ところが本社では月産3000台ということで結論を出した。内田氏はすごいショックだったという。そんなことならやめると言ったそうである。すると本社では何台ならやるんだといってきた。そこで内田氏は月産4000台と言ってしまった。
内田氏は後に回想して「一生の不覚だった」と振り返っている。4万台と言えばよかったというのである。実際、発売から数ヶ月で販売台数はこの数字を上回ったという。

こうして振り返ってみると、一つのコンパクトカメラが生まれるまでに、設計者および技術スタッフが血のにじむような努力をしていたと言う事を、我々は忘れてはいけないと思う。今ではあたりまえの技術であっても、そこにたどり着くまでの苦労を知るとともに、今あるこのカメラ達を大切に使っていかなければならないと思う。
ともあれ、あまり大切に使ってばかりいるとメ−カ−が新製品が売れなくて困るのであるが、それはまた別の問題ということで(笑)。


※ 資料としてネコ、パブリッシング社刊「ノスタルジックカメラ、マクロ図鑑 Vol.X」を参照に させていただきました。
カメラの基本を根本から変えた歴史的カメラ
ピッカリコニカ